2016年2月5日金曜日

平成二十八年歳旦帖 第三 (青木百舌鳥・しなだしん・五島高資・仲寒蟬・佐藤りえ・石童庵)


青木百舌鳥 (「夏潮」)
冬濤の全幅にして襲ひ来る
雪降りつぱなし晴れれば風花に
風力発電機白鳥の暮らす町
街灯がシャワーの如し小夜小雪
年賀状の補遺として書く女の名



しなだしん (「青山」同人)
元旦のましろきものに足の裏
日翳りてすぐ日の戻る初景色
漱石のやうに蕎麦湯をすすりけり



五島高資
冬の陽を見て実をつけて帰りけり
初凪やムーの山の端浮かびたる
日と影と歯朶に溢れてをりにけり



仲寒蟬
人参の赤うつくしく雑煮椀
雑煮食ふむかしの父は柱背に
初夢の中で仕事をしてゐたり
亡骸の運ばれて行く松の内
信号の青のずらりと初景色



佐藤りえ
初空やムスカイ・ボリタンテス飛行
礼者来ていよよ鏡を輝かす
四方から春著の猿の来たりなば
宝船来よ金襴の波越ゑて
口開けて凧を見てゐる男の子



石童庵
実名と虚名の乖離去年今年
還暦に一齢加へ初山河
出初式一斉放水にて了る