小沢麻結
ひとことを幾度さらひ卒業式
卒業や今一度部室へ回り
仲良くもなきが肩抱き卒業式
堀本 吟
桜咲き上級生は去りにけり
卒業やパイプの椅子と鉄パイプ
革ジャンを制服に替え卒業す
さびしいな友達がなく職がなく
卒業シーズン終わって薔薇が半額に
卒業の式あっけなしチューリップ
にっぽんの票田として卒業生
人生に卒業は無し死はあれど
日月に終わりはないが卒業す
亡父(ちち)曰く亡母(あれ)はいまだに女学生
下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
鳴き交はしたき鳥もなき彼岸かな
佐保姫やけふより月の下弦なる
人間と大樹は晴れて穀雨かな
岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
啓蟄の赤らんでゐる埴輪かな
種床や起きる起きると夢の中
ゆるやかに靴音止みぬ初桜
依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
苗札やこの双葉には光さし
手が冷えてほの明るさの初桜
古草に木の花いくつひらきたる
依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
そのうへをこころたゆたひ蜷の道
摘まんとす土筆ありけり指のはら
花粉とばし尽せし土筆つひに鳴る
網野月を
卒業生四年熟成ものワイン
初花の振袖スーツ映えにけり
研究室に角瓶一つ春の宵
送られる卒業生と送る師と
二日後の校舎春光のみ充ちる
寂しさや師は前を向くしかない
年度末来月は未来人来る
浅沼 璞
卒業の看板ありき映画館
紅白梅送辞答辞図鑑賞す
またがつて古木とともに卒業歌
石童庵
卒業す紅萌ゆる丘を背に
卒業す誰とも消息絶つ心算
未練などさらさらなくて卒業す
ふけとしこ
たこやきの箱の汗かく春一番
起き抜けの水に放して三月菜
囀りの散つて隅々まで青空
望月士郎 (「海程」所属)
左手は右手で洗う多喜二の忌
貝寄風や胎児に耳のできあがる
ブランコを漕ぎつつ奴隷船のこと
牛乳の表面張力春満月
人形抱いて海市に向う船着場
佐藤りえ
渡されて犬にほひたつうらら哉
痰壺を眺めて春の日の暮らし
アイシングクッキー天竺までの地図
首すぢの空気穴から春の塵
睫なき菩薩のまなこ彼岸西風
真矢ひろみ
春曙光二度寝の夢に妣の坐す
大ぶりの霊を輪切りに長閑なり
碧天は御霊に狭し揚雲雀
真崎一恵(( )俳句会)
第二ボタン外し胸張り顔しかめ
春の雨希望の緑空高く
人波を撫でて帰った春の夕
ポケットの中に鍵なし春浅し
卒業の日に友の数倍増す
とこうわらび(( )俳句会)
学生の皮をはぎ取る春一番
雪解けや別れの日まであと一歩
学び舎の新陳代謝春来たる
卒業や取り残されたパイプ椅子
桜咲き何事もなく時の過ぐ
曾根 毅(「LOTUS」同人)
納屋の土筆卒業の日は寝て過ごし
前北かおる
一堂に再び会し卒業す
十二年歌ひし校歌卒業す
卒業のエスカレーター自動ドア
もてきまり
啓蟄は身を切るごとしひきこもる
死んだのよあなたと私花の宿
偽の死の枕二つや沈丁花
青木百舌鳥
水道の遅日の船の往き来かな
また汐吹貝(しほふき)白牌引きし心地なり
浅蜊掘る止めどきさがしはじめをり
雨音に余儀なく目覚め春嵐
捕へたる蟹も加へて浅蜊汁
浅蜊汁明るき色の砂残る
林雅樹 (「澤」同人)
寂しき街へ佐保姫乳首からビーム
化粧品売場はいつも春みたい
下着つけマネキン首のなき遅日
スカイツリー傾く桜満開に
サテュロスの女を攫ひゆく春野
早瀬恵子
さくら美人さくら美(うま)しや国の暁(あ)け
催花雨やTOKYO・KYOTOかんばせに
花代と仏門の線香もえ咲かる
川嶋ぱんだ (( )俳句会、船団の会)
学籍がなくなるという春近し
別れというほどでもなくて卒業す
門出というほどでもなくて卒業す
それぞれにスーツの第二ボタンかな
それぞれの角度から見る桜かな
それぞれの水のその後の桜咲く
天野大 (( )俳句会)
風光る川の流れの速きこと
砂時計ひっくり返すつくしんぼ
引き出しの第二ボタンに口づけを
前北かおる
草の青俄かに濃ゆし犬ふぐり
けらけらと空き缶転げ風光る
初桜老いて口数多からず
神谷波
はつさくを山ほど剝いて煮て朧
たんぽぽの絮そつと乗る夜風かな
大振りの白椿には曇天こそ
網野月を
春光や櫓の上の高層ビル
松禄を抜け出して食う穴子焼
イマカツの香りを余所に春の街
五代目を襲名興行花だより
雪姫の落花や風の春ならば
青柳の夕風の先煉瓦亭
髪匂う滲むネオンの春の宵
杉山久子
卒業の朝の真白きマグカップ
卒業す音楽室の窓鳴らし
雲追うてゆく雲のあり卒業歌
内村恭子 (天為同人)
春の雷キメラマウスに耳新た
いもりの尾また生えてくる春闌けて
春宵の丘にクローン羊たち
シナプスのつながつてゆく春隣
春の虹映す再生角膜に
小野裕三(海程・豆の木)
大玉を持ち歩きけり島朧
尖塔を学び終えたる春の客船
正餐に猿も鳶も魚島も