2016年4月22日金曜日

平成二十八年春興帖 第六 (ふけとしこ・望月士郎・佐藤りえ・真矢ひろみ)



ふけとしこ
たこやきの箱の汗かく春一番
起き抜けの水に放して三月菜
囀りの散つて隅々まで青空



望月士郎 (「海程」所属)
左手は右手で洗う多喜二の忌
貝寄風や胎児に耳のできあがる
ブランコを漕ぎつつ奴隷船のこと
牛乳の表面張力春満月
人形抱いて海市に向う船着場



佐藤りえ
渡されて犬にほひたつうらら哉
痰壺を眺めて春の日の暮らし
アイシングクッキー天竺までの地図
首すぢの空気穴から春の塵
睫なき菩薩のまなこ彼岸西風



真矢ひろみ 
春曙光二度寝の夢に妣の坐す
大ぶりの霊を輪切りに長閑なり
碧天は御霊に狭し揚雲雀