2016年12月23日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第一 (大井恒行・木村オサム・堀本 吟・網野月を・花尻万博・小林かんな)




大井恒行
二度となく二度とないわれ降る雪に
雪雲によりそう蝶となるしじま
訪れる確かなものに冬の旅




木村オサム(「玄鳥」)
ホルン奏者だけの行進冬木立
聞くたびに答えの違う冬の霧
回廊の眠気狸のふぐり見え
梟から取り出す螺旋形の闇
落葉して大路に猿が増えてゆく




堀本 吟
未来からこぼれあふれて薄なり
動かずばそびらさむかろ空蝉よ
天は青ちりばめし黄は冬の蝶




網野月を
耳漏れの中東辺の曲立冬
グローバルなんて空事いわし雲
此方から見れば錆色冬の空
神さまから見れば絨毯冬の雲
正義とは便利な言葉花八手




花尻万博
夕時雨白き猫濃くなりゆきし
人泊めて鯨の船を思ふかな
日短か赤子の中の水の音よ
寒禽や一燭となる二三本
月夜茸煩くて道分かれけり
今は亡き追ひ掛けし人 狼も




小林かんな
木の股のじきに忘れる初時雨
山茶花や記憶の歌詞の食い違い 
子を出すな楽隊やってくる小春
冬銀河猿のシンバルもう打たず
空汚すひとつに綿虫の本気