2016年12月2日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第十三 (椿屋実梛・田中葉月・加藤知子・小沢麻結)




椿屋実梛
山椒魚こんな哀しい貌になる
シャンプーの香に一日を解きをり
独りにもそろそろ厭きて飛蝗跳ぶ
白秋の寝息しづかに愛のあと
秋暁のなかに横顔眠りをり
秋暁の街にその背を見送りぬ
釣瓶落し地下の社食に蕎麦啜り
淋しさが嵩増してゆく黄落期
乗るはずのバス遠ざかり秋逝かす
酒で飲むハロウィンの日の処方薬



田中葉月
夏興帖
動きだす向日葵すこし不眠症
空蝉やはちみつ色の声のこし
ひまはりの歩きだしたる少年兵
惜しみなく少女にかえる八十八夜
興亡の石の声きく朱夏の空

秋興帖
白露に小指の将棋くずしかな
閻王の集めし舌や唐辛子
イアリング左右ちがって蛍草
手付かずの空の青なる秋の蝶
くびひねる汝はぎもんふいぼむしり


加藤知子
半分の肺の青さよ夏時間
秋暑し小股にはさむ大言海
電線切ったつるべおとしたクレーン車
山粧ふ分からないから妄想す
ごしごしと洗えば白き冬支度



小沢麻結
イヤリング気怠く外し夏手袋
香水やノオト開きて書き付けず
背に砂つけて戻りぬサンドレス
酔芙蓉朝に軽く夕重く
秋日和パレードはまだ見えねども
この先の十年大事衣被