2017年12月8日金曜日

平成二十九年 秋興帖 第七(林雅樹・神谷 波・前北かおる・飯田冬眞・加藤知子)



林雅樹
枕木の柵に道果つ秋の昼
えのころや痴漢注意の札古ぶ
刈られたる草に混じるや彼岸花
宴果て玄関先に新酒吐く
茸試しひとり恍惚ひとりは死


神谷 波
秋来ぬと芭蕉のさやぐ軒端かな
雨後の空ほしいままなる赤とんぼ
おつとりと白鷺歩む苅田かな
秋の声朝のカーテンの隙間より
目つりあげ鮭は吊るされをりにけり
怪しげな茸が寺の庭の隅


前北かおる(夏潮)
裳裾なす島のともしび月今宵
秋風や朝に磨く能舞台
湊より大きなフェリー天高し


飯田冬眞(「豈」「未来図」)
水音はいつも空から紅葉狩
猪の穴縄文の血の騒ぎ出す
指の腹添へて釘打つ秋曇
やや寒し格差社会の靴磨く
胸薄き男の笑ふ昼の月


加藤知子
覆面が仮面を追ってゆくちちろ
ましら酒ちよにやちよに酔う詐欺師
ちちろ鳴くあなたにちかづくための闇
顔の穴あればへちますい海へ