2018年6月1日金曜日

平成三十年 春興帖 第七(近江文代・渕上信子・花尻万博・浅沼 璞・五島高資)



近江文代
くちびるを薄くレタスを裂いている
遠く来て磯巾着の縞模様
遺影とは三色菫咲くところ
片方の足組んでいる藤の昼
発音の途中浅蜊の口開く


渕上信子
連翹よりも山吹の濃し
百千鳥花殻摘に倦み
花過の月細りゆく日々
もやしの髭根とる夫に蝶
昭和の日安楽死の話
夕ひばり黒点となるまで
春をかなしむ家持のごと


花尻万博
桜貝いちいち波に応へ照る
浸す足持たぬ仏に水温む
何もかも子らに任せる桜烏賊
牛の声鬼の声草摘みにけり
花疲見ている沖の光かな


浅沼璞
時の門ぬければ石だたみ芽吹く
実朝の石の烏帽子の風光る
看板に春雨 東京流れ者


五島高資
沈みたる島と繋がる磯焚火
永日や手のひらに手のひらを置く
方丈の岩屋に空や雪解水
雛の間や川は夕べへ流れけり
右大臣の烏帽子を直す雛の朝
蹲へば雲母さざめく正御影供