2018年6月15日金曜日

平成三十年 春興帖 第九(網野月を・水岩 瞳・青木百舌鳥・佐藤りえ・筑紫磐井)



網野月を
雪という娘がいて春の日を迎う
ぶらんこに坐す老残の目の濡れて
料亭の昼行灯や春告鳥
目借時拾ってしまう捨て台詞
平成に最後の昭和の日なるか
尾を右へ振れば右向く稚鮎かな
リビングに自分空間こどもの日


水岩 瞳
テスト終はつたあ!イェ~イ立春
不合格合格なべて春疾風
文集に君の文字なく卒業す
無人駅春天に日も月もゐて
コンクリの溝はいつしか花筏


青木百舌鳥(夏潮)
はやり目に罹りをれるも花の後
樹々若葉してきらきらと名を得たる
ながらみといかものぐひの目が合ひぬ
虻に生れ蠅に生れて並び居る


佐藤りえ
仮想敵打ち据ゑ猫の仔の停止
ポンヌフは新しい橋鳥曇
檻に春来て唐獅子の眞居眠り
遅桜御息所をねむらせよ


筑紫磐井
割れるまで蝌蚪の大団円の塊
山独活の般若波羅蜜より苦し
春疾風煙の上がる国境
保守党が負けても村はうららかに
友情を引きかへにして恋うらら
卒業式みな親指のよく動く