岸本尚毅春寒やあたたかさうに花屋あり
お彼岸のお稲荷様や人遊ぶ
墓の辺や藤ははげしく虫を寄せ
毛深くて蜂と思へぬつらがまえ
やどかりや絶壁に汝死ぬなかれ
母と子と春の日暮の砂あそび
衣笠にすこし涙やチユーリツプ
辻村麻乃シャッターを押せば鶯鳴きにけり
初鳴きや父の奥津城ふんはりす
わたくしを休業したる春の風邪
赤き眼に包囲されゐて花万朶
風光る大黒様の腹の皺
村中の鯉のぼり今飛ばんとす
戻り橋手招きしてゐる花蘇芳
山本敏倖(豈・山河)囀りや古いからくり時計ぱろ
パッカーションお国訛りの木の芽かな
奥へ奥へ麒麟の影を曳く霞
麦踏んで大地の神を目覚めさす
オートロックする単線の逃げ水
加藤知子水仙の水は古地図に浸み渡り
チューリップのチューの相手は機密保護
木瓜咲くや尊きものは死んでいく
下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)ひらきたる窓の上に窓鳥帰る
風光る水底に棲むものたちへ
うつくしき日本の旗と甘茶仏
岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)粗忽なる膝かしこまる桜餅
流れありときに蛙のこゑとして
堆き三十年や春の坂
依光正樹(「クンツァイト」主宰)たんぽぽの中に私が咲いてゐる
春灯や館を守る紺絣
妓をやめて店を持ちたる花蘇芳
春の海に面テ上げたる女かな
依光陽子(「クンツァイト」)風光る空貝より汐溢れ
掌に乾ける貝や鳥ぐもり
鼓草踏んでか黒きかもめかな
黄の花と蝶をちりばめ野となりぬ