岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
人のゐて人住まぬ島栗の花
捩花や蝶は惑はぬ迷ひ道
夜の更けていよよ淡きは仏桑花
依光正樹(「クンツァイト」主宰)
草ともにそよぐがありて著莪の花
水使ふ音のかそかや額の花
額の花よく根がついてうつくしく
ゆく鳥に花を摘みたる女かな
依光陽子(「クンツァイト」)
野のものに弔ひもなし杉菜生ふ
彼方より低く来る蜂かきどほし
尋ぬるに番地が頼り花水木
朝顔の苗に蛇口をひねる頃
近江文代
サボテンを切れば昨夜の水滲む
芍薬の光の束を信頼す
金魚得て水の膨らむ夜であり
某日を人を焼くように繭を煮る
生きている十本の爪青山椒
前北かおる(夏潮)
遠足の金平糖の大袋
遠足や空を仰ぐに芝に寝て
塗りたての大吊橋や谷若葉
望月士郎
桐の花わたくし雨とあなたの雨
蛍狩しらない妹ついてくる
鳥のいるページめくると白雨の街
はんざきの半分もらってくれという
射的場の人形ひとつ落ち夜汽車
みみなしやま風鈴売の振り返る
髪洗う指にこの世の頭蓋骨
林雅樹
塀の上の鉄条網や夕桜
囀や質屋の飾窓に真珠
永き日の女相撲に暮れにけり
桜蕊降るや弓道場無人
張られたる田水光るや闇の中
カンテラの近づいて来る時鳥
葉桜の窓に光れる抜歯かな
下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
魚の水脈鳥の水輪や更衣
蓮咲いて明日の吾をうつす水
その母に聞く友の死よつばくらめ
岸本尚毅
どの店の煙ともなく梅雨の路地
店の中あちこち眺め麦酒のむ
蚊喰鳥後生鰻の水深し
世紀末過ぎて久しき昼寝かな
眉と髯こぞりめでたき裸かな
南瓜抱く夕焼村の村長は
昼顔が遠く咲くのみ昼休
渡邊美保
ボール蹴る少年老いて花は葉に
賞品は白詰草の首飾り
曳航の後の高波夏燕
神谷 波
つれだつてつつじを越える揚羽と揚羽
昨日ほととぎす今日鶯の主張
気兼ねなく十薬群れる日陰かな
あぢさゐの「あ」のいきいきと濡れてゐる
木村オサム
夏蝶来君に寝癖がある限り
潮まねき波打ち際の音たわむ
文字のなき砂漠の上を紙魚走る
町内に虎いる気配大西日
許されたつもりまくなぎついて来る
堀本吟
神功皇后陵
亀石や亀の祖先と鳴いてみた
蜂飛んで来るも高くもない鼻に
はんかちを線対称にわかつ蟻
白砂に倦み巌磐井石清水
神功皇后陵ある村や立葵
内村恭子
ゴンドラの櫂の音響く夏館
夏潮や波音に消ゆ「タジゥ」の声
パラソルはいつも青白縞模様
夕星を待つ中庭の噴水に
衣擦れと甘き音楽夏至の夜の
坂間恒子
葱坊主真昼の寂しさに磁力
柏餅テトラポッドの女体めく
減塩・全粥母の日の母あかるくす
褄黒豹紋蝶三途の河を渡りくる
百頭の蝶のまつわる母の部屋
網野月を
風なぶる髭もうじきに関帝祭
五月闇とれた釦を付けてをり
貌照らすスマホの明り五月闇
小満や松竹錠をへの六へ
バラ優し自分の匂いの好きな子は
この頃の傘はパステル桜桃忌
寅さんの軽きボストンかたつむり
渕上信子
愁ひ貌なる春のAI
はこねうつぎのまだ白き頃
巨星落つ五月号立読み
こゑ張上ぐる日雀小さし
立てば尺蠖座れば釦
水着廃止のミスコンテスト
動く歩道を走る香水
田中葉月
てふてふのそのてふてふのかくれんぼ
勾玉ものびをするらし茅花風
繭ほどをつみかさねつつ生きてをり
ほらもつと見てゐてほしい額の花
くちべたでたぶんぶきよう釣鐘草
北斎の波より奇なり花卯木
万緑や走る教師の夢途中
父の日やそろそろ父の顔をぬぎ
言の葉の茂みより出づ三光鳥
山本 敏倖(豈・山河)
宙返る江戸の匂いの鉄線花
寸法は蜘蛛の囲ほどの叫びかな
劇薬の劇中劇や濃あじさい
薄墨の空間を経て緋鯉行く
玄室の象形文字を辿る蟻
原雅子
見えてから遠き灯台草萌ゆる
浮島やほのぼの雀隠れなる
ふるき佳きあめりかあめりかはなみづき
いくばくか力まだあり山青む
春祭まづ神官がつまづいて