2018年11月30日金曜日

平成三十年 秋興帖 第六(北川美美・花尻万博・神谷 波・家登みろく)



北川美美
地球儀を回す占い天の川
天の川はるか遠くの破裂音
舟底に当たる星屑天の川


花尻万博
猟犬を煙に包む拍子かな
コスモスの喜びは固まつてこそ
新米の音にプログレあはれなり
木の国や飯屋飯屋に山紅葉
驚きの次々緩む鰯かな
木枯しと不意の電話繋がつてゐる


神谷 波
蛇のしばし息んでゐる花野
ハート形顔の土偶よこんにちは
台風一過元気にアサギマダラ
秋麗のアサギマダラをひとりじめ


家登みろく
コスモスやてんでに揺れて総揺れに
猫ごとに違ふ鈴の音秋澄めり
もろこしの粒のじぐざぐ輝ける
月さやか誰とも会はぬ一日に
昭和の熱平成の寒気草の花

2018年11月23日金曜日

平成三十年 秋興帖 第五(田中葉月・網野月を・堀本吟・前北かおる・乾 草川)



田中葉月
音楽室くるり出て行く処暑の猫
この秋思約分すればオンザロック
水底に火の匂ひ秋の響灘
陽気すぎる空につまづく鰯雲
桔梗の方向おんちヒトオンチ


網野月を
小春日や間延びしている踏切音
陽の赤い家族日和の大花野
目を閉じ深く吸う白い風日和
中庭の子らの歓声そぞろ寒
もも売りの達筆一函參千円
三十年年上女房の冬帽子
蛇笏忌や虫歯のいない甲斐の国


堀本吟
ツユクサ
立秋や底から濁る湖の水
石像を胡散臭しと鰯雲
秋風裡さらさらとヘアアーチスト


前北かおる(夏潮)
新米の担ぎこまれし三和土かな
コンバイン操る写真今年米
箸置に箸を揃へて今年米


乾 草川
星光を蔵して桃の眠りゆく
鉦叩前頭葉を酒が攻む
笑ひつつ花野を神は発つだらう
抽斗に流星飼ふてゐる歩荷
新藁の香が境界父の国
ショパン火に焼べては秋のビールかな
釣瓶落し翁恋ひしと石の哭く

2018年11月16日金曜日

平成三十年 秋興帖 第四(坂間恒子・林雅樹・渕上信子・渡邉美保・小野裕三)



坂間恒子
マリー・アントワネット立ちたる鶏頭花
マリリン・モンローのくちびる牽牛花
秋冷のダリア素戔嗚尊かな


林雅樹
柘榴実るバス終点の住宅地
捕へたる蜻蛉や己が尻を噛み
秋桜や獣医学科の庭に犬
金髪の菊人形やじつは死体
肛門に杭突つこまれ案山子にされ


渕上信子
おかしくなつてゆく鰯雲
英語で自慢秋の富士山
塵置場まんじゆさげ満開
団栗よりも薬ころころ
黄落きれい句碑の句は駄句
腰掛けるには茸小さし
霧の匂ひをまとひ「ただいま・・・」


渡邉美保
ひやひやと医師に耳奥照らされて
きつねのかみそり傍らに案山子立つ
お地蔵の紅塗り直す十三夜


小野裕三
蟋蟀の夜の力で鳴きにけり
諦めた色ありそうな曼珠沙華
勇ましき声も混じって赤い羽根
秋晴れに大きく立ちて修理工
蚤の市に漫画全巻鳥渡る

2018年11月9日金曜日

平成三十年 秋興帖 第三(山本敏倖・ふけとしこ・夏木久・曾根毅・小林かんな)



山本敏倖
菊日和客の一人をもてあます
細戈千足国(くわほこのちだるくに)なり秋二日
鳥兜この能面はゆるいと見る
いにしえの剣の舞や蔦紅葉
晩年や紅葉の夜を腑分けする


ふけとしこ
畦に立つ長き腕組み秋の蝶
草虱あの山も名を持つはずよ
花布を銀鼠色に後の月


夏木 久
長い夜を殴り倒して遮断機降ろす
秋灯を点けてこの街抉じ開けり
安易にも葱をばら撒く会議室
鯖缶開け空缶にして秋の海へ
高圧的な客の居座る電気店
立秋や更地の隅に病める雲
星宿を探し疲れて破芭蕉


曾根 毅
鬼灯の内に骨やら髪の毛やら
破蓮神仏もまた破れたり
軌道から逸れし蜻蛉は匂うなり


小林かんな
秋澄めり32個のスープ缶
龍淵に沈みぬ愛はゴミ箱に
東京の鋼の蜘蛛へ毛糸編む
秋夕焼絵筆を放す象の鼻
月明り恋人の顔描き直す

2018年11月2日金曜日

平成三十年 秋興帖 第二(大井恒行・辻村麻乃・仲寒蟬・木村オサム)



大井恒行
攝津忌の褪せぬは赤き水木の実
夜の柿朝の柿目に見えてけり
捨聖ついに参らず父母の墓


辻村麻乃
呪ひ
芒から金髪美女の現るる
補陀落を要らぬと言ひし野菊かな
呪ひたる脚から揃ふ星月夜
列車いま見知らぬ秋を通過せり
秋耕を過ぎた辺りの日暮かな
秋雨でびしょ濡れグランドに少年
一心に窓拭く女秋曇


仲寒蟬
貧血の足を引き抜く残暑かな
馬追の鳴かぬといふはすなはち死
天体のにほひをさせて草の絮
二つある腎臓さびし秋の水
麓から順に灯ともす葛の村
雨月なり尻を豊かに畑のもの
横丁に仏師棲みけり雁来紅


木村オサム
トルソーに頭の生える大花野
桃を食ふ遠き波音聴くために
ひもすがら案山子になって過ごす会
ルービックキューブピカソが林檎描いたなら
前世との軽い約束烏瓜