2018年11月9日金曜日

平成三十年 秋興帖 第三(山本敏倖・ふけとしこ・夏木久・曾根毅・小林かんな)



山本敏倖
菊日和客の一人をもてあます
細戈千足国(くわほこのちだるくに)なり秋二日
鳥兜この能面はゆるいと見る
いにしえの剣の舞や蔦紅葉
晩年や紅葉の夜を腑分けする


ふけとしこ
畦に立つ長き腕組み秋の蝶
草虱あの山も名を持つはずよ
花布を銀鼠色に後の月


夏木 久
長い夜を殴り倒して遮断機降ろす
秋灯を点けてこの街抉じ開けり
安易にも葱をばら撒く会議室
鯖缶開け空缶にして秋の海へ
高圧的な客の居座る電気店
立秋や更地の隅に病める雲
星宿を探し疲れて破芭蕉


曾根 毅
鬼灯の内に骨やら髪の毛やら
破蓮神仏もまた破れたり
軌道から逸れし蜻蛉は匂うなり


小林かんな
秋澄めり32個のスープ缶
龍淵に沈みぬ愛はゴミ箱に
東京の鋼の蜘蛛へ毛糸編む
秋夕焼絵筆を放す象の鼻
月明り恋人の顔描き直す