2019年1月25日金曜日

平成三十年 冬興帖 第三(加藤知子・林雅樹・北川美美・杉山久子・夏木久)



加藤知子
小春日の鳥語おおきく旋回し
寒卵われば少女の黄泉がえり
猪の眼のかなしむときのアドバルン


林雅樹
溶接の火花や雪の降り始む
ストーブの匂ふ名画座のロビー
待ち伏せてポインセチアを突出しぬ
河豚鍋やストッキングの蹠が好き
鱈鍋に煮ゆるたらちやんあちゆいでちゆ


北川美美
地図になき城跡をゆく十二月
手に星や梯子を昇る十二月
新しき看板の立つ十二月


杉山久子
十二月八日盥の底に傷
くちびるに消ゆるコトノハ昼の雪
着ぶくれて番号順に並びをり


夏木久
オーロラをと笑みを零す冬菫
死者生者ドリンクバーに屯せる
ボヘミアから手土産さげて花八手
地下室の井戸に写れる地下の灯よ
引継ぎは湯湯婆のことのみ保安室
踏切のことを畳めばロダンの忌
色々な印象くらべ枯芭蕉