望月士郎まぼろしの象の重力ふっと冬
サーカスの爪先がくる霜夜かな
少女笑えば歯列矯正開戦日
駅頭に落ちてる顔のないマスク
手首から先が狐で隠れて泣く
前北かおる(夏潮)望月のあくるあしたの小春かな
合掌をとけば小春の日ざしかな
皿よりもナンの大きな小春かな
小野裕三山眠る夜へと綴る筆記体
処刑場跡の広さに落葉踏む
王冠を観る人群れて冬館
黒人の息ひとつあり氷橋
クラスメートひとりひとりに冬の聖書
仲寒蟬パンタグラフ折り畳まれて神の留守
冬あたたか会へば笑顔になれる人
風呂吹に透けて昭和の町明り
欠航の朝を塩鮭噛む他なく
山脈を浮かべるための冬青空
狐火を追ふともなしに岬まで
星ぜんぶ呑む勢ひや年忘
田中葉月白鳥や仮面かしら魔女かしら
本能のかたまりごろり冬林檎
天狼星帰つてこないブーメラン
転生の手触りやさし冬の壺
バス降りる冬の銀河の真つ只中