2019年2月1日金曜日

平成三十年 冬興帖 第四(望月士郎・前北かおる・小野裕三・仲寒蟬・田中葉月)



望月士郎
まぼろしの象の重力ふっと冬
サーカスの爪先がくる霜夜かな
少女笑えば歯列矯正開戦日
駅頭に落ちてる顔のないマスク
手首から先が狐で隠れて泣く


前北かおる(夏潮)
望月のあくるあしたの小春かな
合掌をとけば小春の日ざしかな
皿よりもナンの大きな小春かな


小野裕三
山眠る夜へと綴る筆記体
処刑場跡の広さに落葉踏む
王冠を観る人群れて冬館
黒人の息ひとつあり氷橋
クラスメートひとりひとりに冬の聖書


仲寒蟬
パンタグラフ折り畳まれて神の留守
冬あたたか会へば笑顔になれる人
風呂吹に透けて昭和の町明り
欠航の朝を塩鮭噛む他なく
山脈を浮かべるための冬青空
狐火を追ふともなしに岬まで
星ぜんぶ呑む勢ひや年忘


田中葉月
白鳥や仮面かしら魔女かしら
本能のかたまりごろり冬林檎
天狼星帰つてこないブーメラン
転生の手触りやさし冬の壺
バス降りる冬の銀河の真つ只中