2019年2月15日金曜日

平成三十年 冬興帖 第六(井口時男・竹岡一郎・浅沼 璞・乾 草川・近江文代)



井口時男
灰かぶり(サンドリヨン)幾たり眠る雪の村
灰かぶり(サンドリヨン)老いかゞまつて雪の村
雪の夜のわが少年を幻肢とす


竹岡一郎
母の死後鼬のひよんと立つ広場
狐の子地下水道より母の墓所へ
ラブホテル聖樹になりたくて焼ける
すき焼屋奥の店主が牛頭(ごづ)の顏
聖夜明け精霊みちて電気街
カジノ轟轟冬木はみんな切株に
凍天を刺すラブホテル建てにけり


浅沼 璞
濡れたての指たててゐる障子かな
カネつきて勤労感謝の金曜日
人知れず落葉の下に寝る子かな
小春日の地下を一歩も出ずにゐる
また曲がかかり始める障子です


乾 草川
血涙のにほふ外套父還る
身の内に蹲る夢成道会
己が咎知らざる熊の穴に入る
若水や声に応へて土に触れ
花石蕗に葬の灯こぼす勝手口
執行や枯野の起伏気にならず
薺粥寅といふ字に日が当る


近江文代
冬暖かロールキャベツの断面図
平日を冷たく挟む体温計
遠火事へ向き変えて抱く赤ん坊
雪片の息に消えゆくことをまた