2019年2月22日金曜日

平成三十年 冬興帖 第七(辻村麻乃・木村オサム・渡邉美保・ふけとしこ・水岩 瞳)



辻村麻乃
冬天に百軒長屋の胴間声
軒下に忘れられたる冬日向
脈拍の小太鼓となる師走かな
銘仙の滑らかなる肌鐘氷る
車椅子冬の金魚の真正面
空耳に母の呼吸や虎落笛
角巻を脱ぎて狐のやうな人


木村オサム
長崎の墓地に聖樹を立てにゆく
石投げて当たった人とクリスマス
どことなく心拍数の多い河豚
0と1だけが転がる大枯野
冬眠は或るバラードの作り方


渡邉美保
裸木となりて木の瘤賑々し
時々は横座りして一葉忌
木枯一号キューピーを横抱きに


ふけとしこ
さてどうする二つ貰ひし竜の玉
知らぬ町知らぬ川の名冬木立
年の瀬や豆浸けて水平らなる


水岩 瞳
しやぶしやぶと今年丸ごと年の暮
また夫の締めは沢庵茶漬かな
着ぶくれてどんな署名もお断り
水仙や束ねて捩じり皿に立て
高層の窓に消えゆく雪の精