羽村美和子時代という名のあとさきを春嵐
かしこかしこ春あけぼのの標本木
花の夜の深みに沈む目安箱
留守居して満開の花に攻め込まれ
行く春の美貌の石をふところに
小野裕三ウェールズ地方に雨のある立春
古書店に明かり立ち込め春朧
春浅き紐をきしりと結びけり
清潔な校舎春雨は寡黙な雨
どこもかしこも水面並べて春行けり
山本敏倖冴え返る手のひらにあるマチュピチュ
風光る縄文土器の破片かな
水底のモネの色揺れ蝶生まる
花冷えや鱗びっしり通せんぼ
陽炎の第二関節調教す
仲寒蟬色塗つてやれば回りぬ風車
裏の砂透けてゐたりし桜貝
鞦韆のまだ揺れてゐる夜の闇
山の端に雲の混み合ふ仏生会
遠目にもクレソンの沢輝ける
わが影の外へ散りゆく蝌蚪の群れ
高原を来て春星の名を知らず
飯田冬眞パイプ椅子たたみ終へれば春休み
封鎖せし町よ酸葉の赤き揺れ
どら焼きの歯ざはり八十八夜かな
問ひかけて飲み込むことば蜷の道
石楠花の白に囲まれ喉渇く
ざうざうと罪を負ひたり熊谷草
背伸びして覗く巣箱よ朝な朝な