渕上信子「令和」号外四月一日
万葉集に初春とあり
歸田賦には仲春とあり
子引き孫引きともかくも春
平成さいご春もたけなは
蛇穴を出てみれば改元
新元号の五月はじまる
望月士郎しらすぼし知らない人の死亡記事
あおぞらへ蝶ゆく白紙委任状
囁きにふりむくさかな夕桜
春雷の髪から出てる白い耳
そらいろの空はだいろの人はるうれい
井口時男寒明けて焼酎臭い死が一つ
幼さぶ母よかたかごの花藉いて
日暮し坂に春愁灯る影ふたつ
花びら踏んでこちたき鳩の急ぎ足
柳絮飛ぶ水路の町の逆光に
青木百舌鳥(夏潮)連なれる白き遠嶺や畦を塗る
ぬめ革のてかりに畦の塗りあがり
彩雲や午前に畦を塗り了り
花尻万博船頭の歌尻追へる蝶無限
口熊野に宿取る蜷の道踏みて
蘖の森の迷ひ路紀伊夜汽車
耕して喜雨の後手造り柄杓試さむか
遠足の声聞く鬼の蛍光す
背中押すだけの役割鳥の親らも