2019年11月22日金曜日

令和元年 花鳥篇追補・夏興帖 第三・秋興帖 第三(北川美美・椿屋実梛・曾根 毅・ 辻村麻乃・小野裕三・仲寒蟬・山本敏倖)


【花鳥篇】
北川美美
うぐいすをさかしまにきくあさねかな
鳥骨を組み立ててゐる日永かな
港区に古墳ありけり羊歯萌ゆる


【夏興帖】
椿屋実梛
夏立つや異国の青き水の瓶
夏風邪や味覚どうやらおかしくて
風薫る京友禅のポーチより
Tシャツが風に膨らむデッキかな
仲夏なり眠気を誘ふ法律書
サマーセーター歯の白すぎる男かな
鉛筆を返しそびれし美術展


曾根 毅
眦を研ぎ澄ましたりくちなわよ
戦艦の胴に触れたる夏休み
客観の一つは影や百日紅


辻村麻乃
あめんぼの動けば光動きたる
花ダリア一つ一つの虚空かな
蜘蛛の囲を掻き分けてゐる調律師
隠れ沼や藻海老背筋伸ばしをり
零余子剥く爪半月の父に似て


【秋興帖】
小野裕三
枝豆を悲劇のように盛りにけり
三面鏡にひそむ終戦記念の日
降りやんだ雨の形で黄鶺鴒
話聞かぬ耳を並べて茸喰う
十一月をひとりで渡る綱渡り


仲寒蟬
ひぐらしの周り時間の濃くうすく
一歩目に蝗十跳ぶ二歩目に百
爆弾を持ちたる蜻蛉ゐはせぬか
陋巷に淫祠を見たり後の月
幾たびも案山子に道を訊く老婆
鉱脈のかたちに並ぶ曼殊沙華
仏弟子像声なく哭きぬさはやかに


山本敏倖
おるがんの五臓六腑が見える秋
唐辛子尖り過ぎて臍曲げる
風呼んで弦楽器めく秋の蜘蛛
きりぎりすもう譜面には戻れない
菊枕この幕間は酸っぱい