【花鳥篇】
北川美美うぐいすをさかしまにきくあさねかな
鳥骨を組み立ててゐる日永かな
港区に古墳ありけり羊歯萌ゆる
【夏興帖】
椿屋実梛夏立つや異国の青き水の瓶
夏風邪や味覚どうやらおかしくて
風薫る京友禅のポーチより
Tシャツが風に膨らむデッキかな
仲夏なり眠気を誘ふ法律書
サマーセーター歯の白すぎる男かな
鉛筆を返しそびれし美術展
曾根 毅眦を研ぎ澄ましたりくちなわよ
戦艦の胴に触れたる夏休み
客観の一つは影や百日紅
辻村麻乃あめんぼの動けば光動きたる
花ダリア一つ一つの虚空かな
蜘蛛の囲を掻き分けてゐる調律師
隠れ沼や藻海老背筋伸ばしをり
零余子剥く爪半月の父に似て
【秋興帖】
小野裕三枝豆を悲劇のように盛りにけり
三面鏡にひそむ終戦記念の日
降りやんだ雨の形で黄鶺鴒
話聞かぬ耳を並べて茸喰う
十一月をひとりで渡る綱渡り
仲寒蟬ひぐらしの周り時間の濃くうすく
一歩目に蝗十跳ぶ二歩目に百
爆弾を持ちたる蜻蛉ゐはせぬか
陋巷に淫祠を見たり後の月
幾たびも案山子に道を訊く老婆
鉱脈のかたちに並ぶ曼殊沙華
仏弟子像声なく哭きぬさはやかに
山本敏倖おるがんの五臓六腑が見える秋
唐辛子尖り過ぎて臍曲げる
風呼んで弦楽器めく秋の蜘蛛
きりぎりすもう譜面には戻れない
菊枕この幕間は酸っぱい