五島高資
羚羊と目の合ふ時つ風光る
春の風邪ナツメ球の灯目に刺さる
牡丹雪湯の沸く音の中にをり
龍天に登りし松の馨りかな
目を閉ぢて春の入り日となりにけり
松下カロ
父の足さがし続けて春炬燵
息をもて銀器曇らす鶴帰る
春炬燵遠く多産の国があり
辻村麻乃
ビル街の古りて社に淡き梅
白加賀の雄蕊を風の撫で回す
これからと連呼する人梅見かな
枝ぶりを褒めて梅見の車椅子
探梅や口を開けたる老婦人
ぷつぷつと蜆先刻の息を吐く
クロッカスはち切れさうな犬連れて
仙田洋子
春の鹿地軸のやうに傾けり
超新星爆発無音梅白し
梅白しわが細胞も新しく
雛人形みな正面を向く怖さ
カルメンの踏みつけてゆく落椿
影あれば影に佇み桜かな
永遠を追ひかけ雲雀揚がりけり
曾根 毅
瓦礫より赤い毛布を掴み出す
死んだ人らの拍手のようにかぎろい
春めくや坂の時間が長くなり
夏木久
春立ちて入るか出るかの手がノブに
コンタクトその涙目を鳥帰る
行旅死の百円ライター春燈
立春や隙間に水を流し込み
永眠は家出するやう大人しく
箸置きに山背のこと大和のこと
ノートには戯画も寺もの記憶あり
家登みろく(森の座)
福達磨 勝ちにゆくにはまだ素く
独り居の豆撒壁を跳ね返る
海老押しのけ蛤開くちからかな
井口時男
ひしめいてスマホかざすも年迎へ
死者たちの書物並べて去年今年
乳の香うつすら人の日のエレベーター
仲 寒蟬
進むべき道は初湯の湯気の奥
一族とともに縮小鏡餅
仕舞湯の湯気の多さも四日かな
電線の見えぬ空なし初景色
ぺたぺたと赤子の触れて鏡餅
どんどの火こぼれしばらく地を焦がす
ミサイルのあと七草粥のニュース
五島高資
初富士や背骨を昇る炎あり
立ち返る山懐や初筑波
初日影とりどりにあり花崗岩
佐藤りえ
歩み越しとりかへばやの去年今年
今生のいまが倖せ衣被
根性のいまがっついてからみ餅
瑞雲で阿難迦葉を牛蒡抜き
筑紫磐井
子の年の子の国にある御慶かな
先生虎皮下で届く賀状の見覚えなし
さっそうと坊主屏風に消えにけり
【秋興帖】
井口時男
銀河流れよ廃墟も青き水の星
俳諧は死語の波寄る秋の岸
瓦斯燈に秋ともし行く影男
身の秋を泪橋から山谷まで
月蹣跚コンビナートがのたくる
黄落の中を眼病みの独学者
山姥も綴れ刺すかよ冬支度
下坂速穂
初便りにはお互ひの母のこと
店子いつ入れ替はりたる飾かな
どんど焚くけむりは蘆花の旧居へと
岬光世
飾取る品川宿を後にして
小正月過ぎて売約済の花
帯留を愛でてもらひし女正月
依光正樹
花街あり焚火をぢつと見つめたる
露地の人しやがんで立つて年詰まる
亡き人と冬あたたかき手拭屋
侘助や露地の途中に店があり
依光陽子
のし餅のうんと言はする厚みかな
枝撥ねて一鳥枝に淑気かな
鳥のほか父母のゐる御慶かな
かめむしの白き半分寒暮かな
のどか
大氷柱風のおらびを閉ぢ込めて
軒氷柱の雫となるや星の声
バラライカウォッカに氷柱つき立てて
水岩瞳
雑の句を集めて久し師走かな
大安で締め括りけり古暦
初日記また書いてゐる今年こそ
初詣いつもの神社いつも吉
読初の一書「ポピュリズムの功罪」