2020年3月13日金曜日

令和元年 秋興帖追補/令和二年 歳旦帖 第十(家登みろく・井口時男・仲 寒蟬・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



家登みろく(森の座)
福達磨 勝ちにゆくにはまだ素く
独り居の豆撒壁を跳ね返る
海老押しのけ蛤開くちからかな


井口時男
ひしめいてスマホかざすも年迎へ
死者たちの書物並べて去年今年
乳の香うつすら人の日のエレベーター


仲 寒蟬
進むべき道は初湯の湯気の奥
一族とともに縮小鏡餅
仕舞湯の湯気の多さも四日かな
電線の見えぬ空なし初景色
ぺたぺたと赤子の触れて鏡餅
どんどの火こぼれしばらく地を焦がす
ミサイルのあと七草粥のニュース


五島高資
初富士や背骨を昇る炎あり
立ち返る山懐や初筑波
初日影とりどりにあり花崗岩


佐藤りえ
歩み越しとりかへばやの去年今年
  今生のいまが倖せ衣被
根性のいまがっついてからみ餅
瑞雲で阿難迦葉を牛蒡抜き


筑紫磐井
子の年の子の国にある御慶かな
先生虎皮下で届く賀状の見覚えなし
さっそうと坊主屏風に消えにけり


【秋興帖】
井口時男
銀河流れよ廃墟も青き水の星
俳諧は死語の波寄る秋の岸
瓦斯燈に秋ともし行く影男
身の秋を泪橋から山谷まで
月蹣跚コンビナートがのたくる
黄落の中を眼病みの独学者
山姥も綴れ刺すかよ冬支度