2020年5月15日金曜日

令和二年 春興帖 第九(花尻万博・竹岡一郎・中山奈々・北川美美・大関博美・小野裕三)



花尻万博
蜷の道昼長々とありにけり
花降りて沼として薄まれる
浜風と背中を反らす花の中
木の国の鳥居の次の桜となり
半身に花を頂きイノブタらは
我儘に泣かされている昼の蝶


竹岡一郎
疫の春腹話術師の舌の赤
黄砂に紛れこはい寝首を搔くめえか
啓蟄や疫や正義や魔女狩や
「死すべきは死す」と逆打ち遍路這ふ
教室空つぽ恋猫さかり放題
疫神おぼろ首都マンホール次々跳ね
もともと死霊の息吸ふ我ら花万朶


中山奈々
蜥蜴が出てきた世界そのものがバベルの塔だつた
疫病の塔や春燈より崩れ
新聞の日に日に薄し花のあと
誰彼と保有の黄砂降りにけり
服をみな紫とせよ鐘おぼろ
どの国の言語で死者数を伝へやうかとすみれを踏む


北川美美
永き日の窓側に置く電波時計
花粉症湿り気のある黒土かな
春の夜の我は豆腐を抜けてゆく


大関博美
LEDランプにレタス盛りなり
悪女とはなれぬ青春シクラメン
どこからの白タンポポやパン工房


小野裕三(海原・豆の木)
亀あれば鼓膜の奥で鳴きにけり
寄居虫の散文的な歩みかな
数式を究めし学長花ミモザ
糸遊の丘へと歩む安息日
肉体は眠り始めて豆の花