妹尾健太郎早春の鳶佐和山へ舵をきる
眩しくて何も見えない目張かな
人間で残念連翹きっと香り満つ
春眠に出る点心に多めの酢
気象庁その中に鼻を振る穀雨
なつはづき洗ってもまた手を洗うシクラメン
春雷や短いカッコ書きで恋
寄せ書きの文字ぎゅうぎゅうにあたたかし
土筆野や水の匂いの過去にいる
かざぐるまライオンすべすべとあくび
鞦韆漕ぐ言葉がいらぬところまで
ハリネズミひっそり針を立て春夜
小林かんな春の雲ちぎれて犬の駆けてくる
雀の子蛤御門より入る
女性より高き声出るほうれん草
犬の毛に犬の目隠れ春の暮
蝶そして子どもの消える堤かな
山本敏倖不定時の江戸の鐘音桜散る
墨東の交差点から鳥雲に
山水画に戻りかけてる花の精
遍路笠岐路の地蔵に被せおく
継ぎ繋ぐ津波のようなつつじかな
水岩瞳麦踏んで思考の坩堝はまりけり
少年に内省の日々苗木市
黒板に晴れの文字あり三月忌
ルビー婚なんて知らずに木の実植う
さくら桜ひとりと孤独は違ひます
五島高資東日本大震災から九年を迎えて
手を合はせ蹲ふ浜や風光る
志村けんさんを悼む
斃れたる身に滞る春の水
春陰や拳でまなこ支へたる
引き急ぐ春の潮こそ光りけれ
目を瞑り額に受けたる春入日
コロナ死とな言ひそ春のかはたれに
青木百舌鳥遠桜へとつながらず墓地の道
風やみて花ひとつまたひとつ散る
花の山下りて白色灯の花
稲妻のごときフラッシュ花の山