山本 敏倖
烏揚羽天の香具山越えて来る
こっくりさんと密談をする木下闇
箱庭の十三番地冠水す
陰影の無限大描く蔦青し
ピンヒール底の高さに積乱雲
夏木久
解禁の昨夜の夢は薔薇の棘
心臓のリズム乱して花は葉に
荒梅雨へ重機のアーム水の星
青梅雨へ白いカートがドアを出る
ぐるぐるの針金の先今日も雨
耳鳴りへ硝子の檸檬抛り込む
空蝉を覗き夜警は黙り込む
松下カロ
噴水のてつぺん眠る女の子
ハンカチに何か包んで大事さう
仰向けば疵うつくしき青りんご
小沢麻結
草茂る鉄条網は錆び歪み
半日を風に晒して蓮の花
水打つやシンシアの歌口ずさみ
神谷 波
梅は黄熟なす術のなき病
合歓咲くや末期の涙拭いてやる
命終の頬撫でのうぜんの花落ちる
心なしか遺影に愁ひ百合香る
杉山久子
菩薩見て不動明王見てラムネ
耳朶に今宵くちなしほどの冷え
風音やキャンプ終ひのハーブティー
曾根 毅
花菖蒲脚の先から消えかかり
雨音か瀬音か我か五月闇
計算の片手間に蠅叩きけり
竹岡一郎
包丁に水噴く海鞘はさへづりたい
海鞘の殻剝く安けく滅びたい彼奴のも
わが死肉の部位は蛆に喰はせてわが行く
沢蟹の群踏まざれば進み得ず
息を吐くたび睡蓮のひらく音
咬み狂ふ赤蟻の巣は雨充つる
すつぽんに花街劫暑羽根みどろ
【花鳥篇】
小沢麻結
みづうみの眠れるままに公魚釣
縄文土器出土の在所桃の花
花過ぎの人来ぬ土曜見学会
青木百舌鳥
風ありて旱河原に靡くなし
明易し鶏卵おのづから光る
地の雨にずしりと太き茅の輪かな
みあかしに蜘蛛つたひをる糸見えず
灰釉のあをき溜りへ冷やつこ
加藤知子
晴子忌や捨てねばならぬお菓子箱
ぽうと立つ蓮の蕾よ食えないお嬢
なめくじらきょうの白地図黒く冷ゆ
馬の目の濡れて道連れ半夏生
血太りの藪蚊を叩く僥倖
望月士郎
蛍狩背中の黒子さわられる
眠れないさかさのさかな梅雨の月
転生のまずは一旦みずくらげ
手花火に黒いキリンがやってくる
哀しみと金魚掬いは鰓呼吸
仙田洋子
金魚藻のただよふのみのゆふべかな
葉桜の葉擦れに呪詛の紛れ込む
茅花流し空しらじらと明けてきし
シャンパングラス薔薇の花びらもてふさぐ
夕薄暑魚跳ね上がる高さかな
生ビールさびしさにまた乾杯す
七月十六日
仮幻忌のうすむらさきのゆふべかな
辻村麻乃
ここにゐるここにゐるよとほたるとぶ
夕焼けて見知らぬ家族の会話かな
草いきれ疲れの出たる手を繋ぐ
家だけの故郷を捨て大夕焼
不具合の多き一日や凌霄花
浴槽の藻と広ごりて髪洗ふ一人居やアイスコーヒーてぃんと鳴る
渕上信子
夏来る人類皆マスク
スマホを濡らすあぢさゐの雨
火蛾掃くや恋の跡累々
夕合歓の花けむりのごとし
花氷褒め方ほめられて
出刃包丁を研げば郭公
嗚呼すてゝこのこんなをとこと
【花鳥篇 追補】
妹尾健太郎
指で土落とすだけ野蒜すぐ齧る
目の目立つ面目のない落し角
ちょっとちくっとしますよ草餅
しゃがまねど微かに匂う春の土
海苔掻に崖あり一発波かぶり