2020年9月11日金曜日

令和二年 夏興帖 第六(妹尾健太郎・椿屋実梛・井口時男・ふけとしこ)



妹尾健太郎
風薫る脚立に立ったりしなくても
大小の対象のない烏賊泳ぐ
河童忌の銘々皿を銘銘洗う
其は回想シーンから入り来る凌霄花
後ろ頭に生涯浮かぶかの蝙蝠


椿屋実梛
五月雨や静かな曲を好みをり
歩ききてマスクの中は滝の汗
子どもらに思ひ出のない夏となり
鶴瓶落とし政府の愚策底のなし


井口時男
病葉やゲルニカに散る馬の首
青黴やルドンの目玉が闇に咲く
マスク流るゝムンクの橋の梅雨夕焼
ラスコーの闇の赤牛跳ねて夏
喪服脱ぐピカソの女夜の蟬
口寄せたまへば青白きかな夜の百合
こをろこをろと海かき混ぜよホヤ熱死


ふけとしこ
急坂や揚羽と同じ風をゆく
滴りに息継ぐ役行者かな
火の国の出自を言うて冷し酒