田中葉月
月光や放せとせがむ千羽鶴
レモン置く吾がたましひに向かひ合ふ
カンナ燃ゆいく時代かがありまして
木犀に呼び止められてしまひけり
ぬばたまの玉兎を探す夫の貌
中村猛虎
幽霊の寿命の尽きて秋の草
蓑虫の全集中の呼吸かな
血痕を辿れば白き曼珠沙華
芙蓉咲く蘇我入鹿の首塚に
式神を飛ばせば揺れる秋桜
稲光乳房はもっと下にある
小沢麻結
猿酒や花のかんばせはや染まり
雅男の丹精のこれ秋茄子
墓原の足下を洗ひ秋の潮
渡邉美保
行先は知らないと言ふ葛の花
半透明の付箋になりし秋の蝶
火恋し郵便バイク素通りし
なつはづき
秋桜や聞こえるようにひとり言
きりたんぽの穴から覗く永田町
鵙日和すっぴんで書くラブレター
秋葉原尺取虫の席がない
団栗をひとつずつ捨て夜に入る
火の恋し生ハム透けるほど薄く
冬隣手紙破って捨てる山羊
坂間恒子
蝋燭屋の猫が出てゆく曼珠沙華
秋雲のあつまってくる変電所
枯蟷螂ガレのランプに挑みける
駅頭の枕詞なり秋風
シャガールの驢馬の声する秋の虹
仲寒蟬
深閨にあり鈴虫も飼ひ主も
対岸の方がよささう曼殊沙華
向かう三軒猫の出てゐる良夜かな
恐竜の糞の化石や濁り酒
防空壕の蓋を隠せと生身魂
六国史そろへて残る虫の中
萩見事こんなところに植ゑられて
飯田冬眞
秋彼岸正座する者できぬ者
保護色を脱ぎて蟷螂らしくなる
不知火やまだ抜けざりし刺を持つ
電車来るまでコスモスと揺れてゐる
親知らず抜けばどこかに鵙の声
前北かおる(夏潮)
大木に梯子三本櫨ちぎり
野をわたる煙の匂ひ櫨ちぎり
櫨ちぎり髪ごはごはになりにけり
五島高資
追ひかけて土手に濡れたり秋の虹
実朝の矢を探しけり藤袴
金木犀デパート遠くなりにけり
傾いてあめつちを知る茸かな
竹林や銀河の端に風を結ふ
木馬より降りて夕月と帰りけり
水切りの石の消えたる銀河かな
青木百舌鳥
山並を平たく越ゆる秋の雲
寺跡の芝に菌の輪をなせる
辛さんが中辛と云ふ唐辛子
風去つて芒の原のふくらめる
弦月や街の写真はタテで撮る
花尻万博
秋
朝寒や光らぬ水を舐める猫
父母の眠りに鳴子一夜鳴る
木の国の時の流れも通草かな
胡桃割り人形疲れ波音聞く
渡る鳥みな見る形良きベレー帽
蟷螂に畳まれ何かがさがさす
吾子光る猪垣下りてまた上り
小林かんな
三日月の踵に艫綱のかかる
宇宙船酔い止めとして桃のグミ
月がきれいですねボンベに酸素足す
月面をみな後ずさる1ヤード
露草の咲く地球へと還りゆく
早瀬恵子
白膠木紅葉にバロックのシンフォニア
秋深しおばあさまからデジタル化
どこまでも金木犀の独断
木染月母の目に咲く美容院
薄紅葉して抱きおこされる日の母よ
真矢ひろみ
川の字に臥すもの怖し秋の蚊帳
蚯蚓鳴く部長の目許震ふとき
触覚の先の光昏かまどむし天高く火星地下湖に棲むものよ
身の奥のたまゆら碧く秋あはれ
夏木久
檸檬転げる道なりの港町
透明になりゆく鳥を月光樹
踊り場を行き交う後遺症残り
ⅠCUの医者も患者も夜長へと
聞き漏らす釣瓶落しの深層考
闇を切り天の川原を走る人
然も然も地球は棺漂流す
加藤知子
眠れずに眠る男へ花灯籠
星月夜に向けてエプロンをほどく
木をゆするうそ寒の芯つかむまで
望月士郎
みずうみの空耳ミソラ秋澄むや
狗尾草母と哀しくくすぐりあう
キリン絶滅ガラスのビルに映る月
秋そっと自分の影を踏むあそび
霧の町やさしい象とすれちがう
岸本尚毅
木の上に雲現れし良夜かな
山光るほどの良夜のほととぎす
銀漢に羽蟻もすこし飛ぶ夜かな
秋晴や草丈高き外来種
鬼蔦を引いて柿とる女かな
秋晴や駅の北口広々と
つながつて長き白波雁渡し
林雅樹(澤)
劇終はり舞台に血糊秋の暮
新酒酌みコロナパーティーたけなはぞ
覚えとけよ月のない夜もあるからな
秋暑しバリウム呑んですぐげつぷ
ひつじ田に立小便をする男