2020年12月18日金曜日

令和二年 秋興帖 第七(坂間恒子・仲寒蟬・飯田冬眞・前北かおる・五島高資)



坂間恒子
蝋燭屋の猫が出てゆく曼珠沙華
秋雲のあつまってくる変電所
枯蟷螂ガレのランプに挑みける
駅頭の枕詞なり秋風
シャガールの驢馬の声する秋の虹


仲寒蟬
深閨にあり鈴虫も飼ひ主も
対岸の方がよささう曼殊沙華
向かう三軒猫の出てゐる良夜かな
恐竜の糞の化石や濁り酒
防空壕の蓋を隠せと生身魂
六国史そろへて残る虫の中
萩見事こんなところに植ゑられて


飯田冬眞
秋彼岸正座する者できぬ者
保護色を脱ぎて蟷螂らしくなる
不知火やまだ抜けざりし刺を持つ
電車来るまでコスモスと揺れてゐる
親知らず抜けばどこかに鵙の声


前北かおる(夏潮)
大木に梯子三本櫨ちぎり
野をわたる煙の匂ひ櫨ちぎり
櫨ちぎり髪ごはごはになりにけり


五島高資
追ひかけて土手に濡れたり秋の虹
実朝の矢を探しけり藤袴
金木犀デパート遠くなりにけり
傾いてあめつちを知る茸かな
竹林や銀河の端に風を結ふ
木馬より降りて夕月と帰りけり
水切りの石の消えたる銀河かな