2021年1月15日金曜日

令和二年 秋興帖 第十(小野裕三・妹尾健太郎・水岩 瞳・渕上信子・佐藤りえ・筑紫磐井)



小野裕三(海原・豆の木)
手土産のように広がる鰯雲
号外に包まれ朝の桃匂う
眠る日も泣く日も秋の遊覧船
龍淵に潜むあたりに学術書
老いてなお象に一芸黄落期


妹尾健太郎
初風のはじまるところ無地番地
葡萄とは思わなかったのが不思議
まるがおはあんまりいない菊人形
栗飯の栗慰めているお米
秋寂ぶや抜くに難儀な茄子の棘


水岩 瞳
三条を上リ西入ル秋の蝶
あーだこーだと人はコロナ禍水澄めり
虫籠や共同リビング食事付き
うつかりと集めてしまふ木の実かな
どうせならあの人に付く牛膝


渕上信子
九月二七日   俳句詠む力士正代初優勝
九月二八日   秋晴や赤い小さな傘干して
九月二九日   庭へ出ん秋蚊一匹ぐらゐなら
九月三十日   掃除当番秋草を少し刈り
十月 一日   今日の月マスク外して深呼吸
十月 二日   雲動き子夜の満月煌々と
十月 三日   長き夜のもういちど近現代史


佐藤りえ
インターチェンジ芒のなかへきりもみに
楽しかつた日西日に駅のドアひかる


筑紫磐井
紅葉赤くなるとき 水青くなるとき
いぢわるな書評をながめ九月盡