井口時男乱丁泰西美術史初学篇
うろこ雲ひろがりマリリン・モンロー増殖す
モンローの増殖断つべし鵙猛る
モンローの逆さまつ毛や曼殊沙華
田を棄て家を棄て秋晩鐘に母を棄つ
落穂拾ふ妻よまたも子を孕み
糸杉を地の軸として月天心
家登みろく核心になほ触れぬまま栗ご飯
肯うて後の道のり鵙猛る
恋果てて秋光眼を啄みぬ
露結ぶ我がぬばたまのアイライン
しらじらとしめじだらけの鍋つつく
下坂速穂伐られたる木のこゑ満ちて夜の鹿
ときじくの花あるほうへ穴惑
穴惑真昼をしんと曇らせて
鳥の中から鳥翔ちて冬へゆく
岬光世待つとなく朝顔の蔓細りゐる
雨の止む気配を余し萩の花
虫の音をとほす竹垣しつらへし
依光正樹名前なき家事をつづけて秋が来て
ゆふがたのマスク外せば秋めいて
鶏頭を見る秋雨に打たれても
穴惑星のまたたく夜なりけり
依光陽子左手は左へ伸ばす秋の風
秋蟬の翼は濡れてゐると思ふ
まなざしが水引草に触れにゆく
秋蝶や淀みなき枯れすぐそこに