坂間恒子熊手立つ旧街道の金物屋
天平の十二神将除夜の鐘
表札は夫婦別姓注連飾る
裸木にあまたの触手水かげろう
冬カモメ投網のように移動する
曾根 毅青黒き舌の裏側流氷来る
誕生の光を纏い冬の瀧
狼の匂い生木の匂いかな
仙田洋子綿虫の突然ゐなくなる日暮
小春日の峠天使の降るところ
嘴に少年の血や百合鷗
奥飛騨クマ牧場 二句
寝転んで餌欲しと熊手を挙げぬ
芸をする熊をあはれと思はずや
切り結ぶ相手はをのこ寒稽古
雪女涙こぼせばまたふぶく
仲寒蟬人だますやうには見えず狸の目
まだ誰か待つてをるらし夕時雨
一羽覚めやがて水鳥みな目覚む
風呂敷の四隅より枯すすみけり
隣より釘抜き借りて神の留守
梟の目に寄り道の一部始終
冬ざれやしらじらとして石切場
【歳旦帖】
杉山久子フリースの人ばかりなり初電車
初吟行リュックサックの鈴鳴らし
餅花の下うたたねの女の子
山本敏倖生き物の輪郭作る淑気かな
三界双六顔を忘れて二歩戻る
BLACKブラックというガムを噛む元旦
初日から黒い涙のこぼれけり
にんげんの見えぬ間を縫い独楽疾る
竹岡一郎内戦の年賀切手を未来へ貼る
廃墟屋上屠蘇酌む餐を暴動下
死をかろく白く演じて木偶二体
春著一群地下道を出て広ごれり
山川のまろさかなしむ雑煮かな
嫁が君家なき者についてゆく
蓬莱や吉野暮れれば火の音のみ
小林かんな縫始パジャマの腰のゴムゆるく
餅食いたし餅目の前にあり遠し
三口使って母の最後の祝い箸
生姜湯よつくづく母の旋毛見て
傘寿の父傘寿の母を入れる初湯