岬光世手袋の達者に紐を結び終へ
雪曇蟹のととのふ昼の競り
使はざる日日しんしんと年惜しむ
依光正樹冬霞駆けていきたき道なれど
御降りのひとりぽつんとしてゐたる
あの人が月を指さし冬はじめ
立冬のはじめましてといふ声と
依光陽子息を吸ふそのとき雪の気配して
頭に寄する波もありける千鳥かな
君はもう君の言葉となりて冬
冬美しき羽で美美忌と空に記す
花尻万博猪を食めば流れる音ありぬ
字引より不確かな鮟鱇の灯よ
一束の魂を嗅ぎ出す猟の犬
寒鯉や夢の続きのつまらなさ
透かし絵に時折り刺さる枯木かな
室の花その首垂るる色あるや
大井恒行茫洋と煮る大根やキー・ファクター
氷り晴れのとめどなき午後青い昼
国防ややがて明るき鳥に寒
中村猛虎食堂に口が並んでいて寒し
積み上げしドラム缶より冬の月
存在のR指定の海鼠切る
非常口に十二月八日の抜け殻
風呂吹の湯気の向こうの都市封鎖
立山連峰背負いて拾う海鼠かな
冬ざれのざの音にある不誠実
【歳旦帖】
浅沼 璞のびやかに育てて切るや雑煮餅
うし年や餅咀嚼して横坐り
牛肉の部位もばらばら福笑
手遅れといふ遅れなり初電車
ぽつぺんの右の鼓膜を小人かな
眞矢ひろみ元日の日をおしのけて朝刊来
若菜摘む陰に生る根を探しつつ
初風呂の初潜りかな頭一列
水岩瞳この星の神は寄り添ひ年を越す
去年今年貫く棒やコロナの禍
空いちまいあれば希望の大旦
初春や顔あげてゐる陶の牛
名も体もめでたきものよ福寿草