2021年3月26日金曜日

令和二年 冬興帖 第九/令和三年 歳旦帖 第十(小野裕三・飯田冬眞・妹尾健太郎・浜脇不如帰・五島高資・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)

【冬興帖】


小野裕三
プレッシャーに強き青年悴めり
鳰の岸幽霊話ある酒場
オーバーの自由な色で吊るされり


飯田冬眞
寒椿奔馬のごとき運命線
冬の蝶壊るる色を引きずりて
冬木立鏡の国に迷ひこむ
寒木瓜の瘦せて原色のくちびる
寒明の紙は一途なる凶器


妹尾健太郎
妙薬の角狩人の手には無し
にょっぽつりつららのつらのうつらつら
物さがす冬服のどれみふあ
縄跳に時化はじめたる校舎裏
この辺かやや下か大根の首ねっこ


浜脇不如帰
おんらいんしょっぷのシラタキのカラミ
虎河豚はあぶらぎらないフルボディ
「ほんじゃこりゃぁ」Gパン畳む寒夕焼
敗北に得るもの診出す河豚鍋
カピカピが新米ならば缶バッジ
生きて置く要するに意地寒鮃
主イエスの血さらりキッパリ霜柱


五島高資
乗り降りもなくドア閉まるレノンの忌
星空やマスクを取りに帰りたる
飴玉を落として洗ふ寒九かな
寒林や赤色灯の駈け廻る
涸れてなほ夜の病院に水の音


【歳旦帖】

下坂速穂
近況のさても短き雑煮かな
寒紅や江戸の鬼門に棲んで佳き
足音の風のごとしや寒念仏
人去りて人あらはれて露地寒し


岬光世
初凪へ斉しくあらむ願ひ事
切山椒開化の町に商へる
親筆や上寿を記す年賀状


依光正樹
人待つてゐるせはしさに年用意
年の瀬のコートまとつて暑がりで
年の音ひとつひとつの芽が生きて
眺めては灯りがあたり年の花


依光陽子
極月や我が笑ひ声遠のき
見えて来るものを見るべく初旦
星を読む人のことばを仏の座
一月や動かないもの動くもの