2021年4月16日金曜日

令和三年 歳旦帖 第十二(井口時男・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



井口時男
去年今年ゴヤの巨人の一跨ぎ
黒い絵の部屋にみゝしひ去年今年
雪嶺はるか後退り行くわが帰郷
雪嶺かゞやくこの現し世へようこそ
マスクの下のカイゼル髭や信田妻
ナルシスの指わなゝくや寒卵
春寒やメールの言葉やゝ尖り


五島高資
若水を赤秀と分かつ島根かな
初富士の穢土を憂ひて空にあり
立ち返る年の孔雀の助走かな
蓬萊や浦に翁の隠れたる
雲間より天見ヶ浦の淑気かな


佐藤りえ
パパイヤの木にパパイヤの初明り
初御空ひむがしへ行くおほみあし
 悼 北川美美
虎と龍従へ空つ風に乗れ


筑紫磐井
年の鐘ひびかぬ夜を迎へけり
人間ひとのゐぬ草木世界春や嘉し
「今年逝った人々」が溢れてゐる