2021年5月14日金曜日

令和三年 春興帖 第四(青木百舌鳥・山本敏倖・堀本吟・中村猛虎)



青木百舌鳥
下萌に舗道はゆるき下り坂
山茱萸のゆたかに花を爆ぜにけり
芽木の名をあれは欅と眩しみて
草萌をけふは仰ぎて土堤散歩


山本敏倖
春の野に鼻毛のような飛行船
遠くまで初蝶のままこのままで
網膜に春の月呼びノクターン
さえずりや平行四辺形のまま
異端派の能の系譜や竹の秋


堀本吟
洛北の運河日影る桜花
蛇が出る穴いえ揚げたてのドーナツ
ウイルスは感心虚心坦懐な


中村猛虎
歩数計壊れて君を卒業す
ハンカチの自販機のあり鷹鳩に
受験子の母の大きな独り言
雑巾掛け尻の高さに蝶の道
土手に腰掛け土筆に愚痴る
四本の脚の其々青き踏む
父の記憶妻の記憶の海苔黒し