前北かおる(夏潮)今はまだ獣医の卵厩出し
友垣を結び直して山笑ふ
逆風に引きあげられて鳥雲に
渕上信子そのむかし踏絵ありけりタンポポ黄
山茱萸に蝶は隠れてゐるのだらう
『昭和史』は楽しくはない冴返る
検眼に春の憂ひを覗かるる
春ぼこり古本市のぞつき本
機嫌良く亀鳴くを聴く夫の暇
姪のおめでた猫のおめでた麗けし
辻村麻乃名を呼べば子音抜けたる春の風
妣からの遠き小言や飛花落花
指先に満ちる血潮やチューリップ
土鳩の声深く入りたる花の闇
春時雨中華屋換気のぶんと鳴る
杣小屋の朽ちて連翹咲き満ちる
どうしても引きちぎれたる野蒜かな