渡邉美保
海光や翼稚き巣立鳥
幼鳥のはばたく構へ大南風
鳥ごゑは鳥声を呼び新樹光
望月士郎
春陰はガーゼの匂い少しめくれ
逃水にときおり跳ねてわが魚
捕虫網かぶせるための弟欲し
老いという静かな点線蟻つまむ
幻聴のようにオオミズアオを見る
辻村麻乃
入学式むんと胸張る双子かな
翩翻と旗ひるがへり青嵐
裏口に「星のタンゴ」てふクレマチス
海霧や夕闇迫る時計台
箱庭や幽閉さるる偏屈王
袋小路狂つたやうに鳴る風鈴
緋のダリア夜行列車に顔を挙ぐ
ふけとしこ
フェイジョアはつぼみ私に初蚊きて
さっきまで雨喜んでゐた鉄線
たんぽぽの絮も雀も雨の中
神谷波
小綬鶏の呼べど叫べど死んだふり
山に藤五輪五輪とあほらしや
その声の今日喧嘩腰ほととぎす
小林かんな
ぶらんこをこつんと降りて共犯者
土の上で死にたかったろヤモリの腹
高山寺蛙の喉のふくらんで
啜る人干す人梅雨入近き月
夜の新樹父の咆哮もう沈む
坂間恒子
からすうりの花サックス咆哮す
黒揚羽ダリの時計にふれるかな
フラメンコダンサー手拍子立葵
阿修羅像の片鱗しめす宵待草
倒木に五匹の子亀暗くいる
中村猛虎
監視
揚雲雀追いかけていく縄梯子
深呼吸して細胞に木の芽吹く
高速道にもんどり打ちて山桜
囀りに踝まで埋まる
パソコンの全てにカメラ花の冷え
菜の花の非常ボタンに届かざる
チューリップ君のどこにも翳がない
木村オサム
梅日和片手だけ出す箱男
本を読む人の手を見る花の昼
囀りや疲れた影が先に浮く
陽に透かすリポビタンD麦の秋
若作りしてさくらんぼもらひけり
岸本尚毅
額から鼻へしづくや甘茶仏
バンザイをさせて小さき子猫かな
埼玉は草餅うまし雲白し
その人の墓ある山に鳴く蛙
陽炎の尖の震へてゐるところ
薄赤き塵となりつつ桜蘂
てつせんの花喰ふ虫や葉も少し
渕上信子
マーキングみたいに散歩春寒し
人丸忌いかなお方でおはせしや
昭和史の複雑すぎる昭和の日
春はやて風見の鳥を軋ませて
猫の手でこと足る用事小判草
感染予防手順が違ふ老い鴬
夕涼やみんなマスクをして真面目
山本敏倖
枝垂れ桜己の影を嗅がんとす
手のひらに残花の残響匂いけり
見えない糸の遺伝子辿り鳥帰る
酔狂の素性外せば水中花
蟻の穴人差し指が襲いくる
仙田洋子
揚雲雀わたしを空へ招いてよ
少女らの駆けて菜の花蝶と化す
白躑躅ティッシュペーパーのごと溢れ
百千鳥同じ地球を借りてゐる
太古よりつづく大空軒菖蒲
遠くより恋の兆しの日雷
夏河原朝日のやうな夕日かな
曾根 毅
石室の大きな隙間山桜
飛花落花胡麻の風味のランドセル
迎撃や桜と桜の間から
杉山久子
すかんぽのさみしきほどに丈高く
剥きかけのバナナを持つて眠るなよ
ブラウスに葉桜の影ららららら
夏木久
逃水と太陽の影闇市に
難色を避けて余白に逗留す
病院の影に寂れて椅子を待つ
とある星の空蝉ホールのリサイタル
その一語絡め取るには棘棘が
幽霊の中の数人ホームレス
徐は街壁画伯の深層考