2021年8月27日金曜日

令和三年 花鳥篇 第九(なつはづき・竹岡一郎・堀本吟・飯田冬眞・青木百舌鳥・水岩 瞳)



なつはづき
青鬼を泣かせてしまうバレンタイン
春の雪触れたい唇を探す
末黒野の微かに匂う夜深し
寄居虫や手なずけられる闇ひとつ
シュレッダーごうごう桜散り始む
四月馬鹿腹話術師の長まつげ
寝袋の耳だけ冴えて遅桜


竹岡一郎
宇宙卵つつめる花もありぬべし
沈丁花ほとに薫らせ暴君たり
はるうれひ昭和硝子の星の紋
澄みゆけり虹煮る姉のひとりごと
有刺鉄線灼くる禁忌のペンチを手に
糸巻回る空蝉めくれ裏返る
ぐつちやぐちや麺麭とケーキと巴里祭


堀本吟
急坂をまろぶまさかの蟻地獄
紫陽花の路地の三方行き止まり
紫陽花は見知らぬ路地に核のごとし
密かにもあわき水母に刺されたり
白い蛾がどこかの星と戦争中


飯田冬眞
鰊空後ろの山に狐憑き
遥かなる千島樺太蜃気楼
山伏の影を離れず春の蝶
蝦夷の蚕屋熊の爪痕深々と
事故現場囀だけが残りたる
点滴の刻む祈りや春の虹


青木百舌鳥(夏潮)
何もない青空があり雉の声
猫うららうなじ搔くとき片目あき
クレソンは咲き小魚は跳ねつづけ
白玉やリビングにあるお仏壇


水岩 瞳
ポスト迄なれど浅黄の春ショール
あの時のわたし許せぬ飛花落花
朧夜や赤鉛筆の好きな○
大学のチャペルは涼し黙涼し
地下鉄のカーブの軋み手にダリア