2021年9月3日金曜日

令和三年 花鳥篇 第十(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・網野月を)



下坂速穂
花の雨花の嵐となりつつあり
空にありし枝を集めて烏の巣
つつ立つてゐるは燕を見てゐたる
青葦や人は遠くへゆきたがり
   

岬光世
葉桜やバックハンドがまだ苦手
硝子戸の閑かに昏き杜鵑花かな
浜木綿の花もやもやと咲き初めて


依光正樹
春禽のよく鳴くこゑもおもてなし
鰻食うて旬の花々活けもして
日々のもの食うてうれしき夏料理
水草の花やあたりをうち鎮め


依光陽子
叢雨や砂を噛んだる野梅の根
うぐひすや色を少なく咲く庭に
かなしみの消し方茅花流しかな
ふりほどく光は夏のかもめかな


網野月を
記入漏れの生年月日若葉騒
ハンカチもリボンも黄色麦の秋
梅雨流すステンレス製すべり台
誕生日に満期の定期夏至る
白ワイン赤でもショーレ薄暑光
うかつにも女性専用車に雷火
欲張りな女神に捧ぐ火取虫