2021年11月5日金曜日

令和三年 夏興帖 第八(ふけとしこ・林雅樹・家登みろく・小野裕三・池田澄子)



ふけとしこ
かはせみの切手で返す夏見舞
向日葵の丈や線状降水帯
行く夏をウバタマムシの長き擬死


林雅樹(澤)
犬の首輪光り新樹の夜を過ぐる
草いきれすごいマスクを外したら
虫入り放題破れし網戸より


家登みろく
二つ三つ氷菓家路を急がるる
影向の松片蔭といふ御加護
をぢさんはかつて小次郎捕虫網
驟雨去り驟雨のやうに街始動
夏雲潔白行くべき道は知らぬ道


小野裕三
サイダーの溢れ出したる希望かな
こいのぼり方向音痴でも愉快
宵祭本祭とも小雨かな
三伏の白きも黒きも放し飼い
「ぜんぶ嘘」プールサイドに告白す


池田澄子
災害級大雨予報以後涼し
蟬穴に突っ込んでみし指を扨て
蓮つぎつぎひらきおらんと寝返りぬ
夕立の先ずは匂いを先立てて
夏野あぁ光の匂いとはこれか
暗い目という比喩にまた夏は秋
無花果裂く我が生誕の覚えなく