中西夕紀秋
帰燕ありいざ演習の帆をあげて
はびこるといふ生きざまの草の花
豊年や力士の坐る二人掛け
馬肥ゆる隣国の船領海に
火恋しジュラ紀の骨のレプリカと
浅沼 璞校庭は初秋で顔は瓜実で
稲妻や川はロダンの如うねる
電柱も人声もなき良夜かな
蜩と見おろしてゐる甃
さはやかに原発近き機影かな
鼻唄の右へ右へと木賊刈る
曲がりしな振り返るなり穴惑
青木百舌鳥(夏潮)隅つこの水引草ののびやかに
へびうりの尾がへびうりの名札巻く
蓮の実に空室ひとつありにけり
塵埃をひろく浮べて水澄める
木々の曳く蔭も光も秋深し
中村猛虎栗飯や縄文人の眉太し
花野来て幽霊子育飴を買う
火葬場の跡地の紅葉紅葉かな
捨て台詞にまとわりついて金木犀
月連れてロードショーのドアの開く
ミサイルのスイッチ埋める秋渚
なつはづき目的地付近のはずのつくつくし
二百十日ウルトラマンはすぐ帰る
三分で出来る合鍵桃熟れる
草の穂や幼くなりたくて眠る
濃りんどう沼に女の名が付いて
茨の実呼吸正しき人といる
秋蝶が最後に止まる革の靴
【夏興帖】
小沢麻結うつし世の疫病あまねく夏祓
水中に飽いて金魚の泡ひとつ
風鈴を鳴らしサラリーマンの指