2022年4月8日金曜日

令和三年 冬興帖第九/令和四年 歳旦帖第九(林雅樹・水岩瞳・佐藤りえ・筑紫磐井・浅沼 璞・眞矢ひろみ・下坂速穂・岬光世)

【冬興帖】

林雅樹(澤)
ブラックホールに吸はれ寒星減りゆける
アイドルカレンダーお渡し会の列にあり
マスクして私綺麗と問ふなかれ
行き会ひしコロナの精や聖夜(イブ)の街
枯蓮の悄然として日本かな


水岩瞳
まやかしの団結のありブロッコリー
星の子と手羽先食べる聖夜かな
山眠る懐紙小さく折りたたみ
バケツだけあつて此処です雪達磨
鬼やらひ鬼に妻いて子だくさん


佐藤りえ
なめて世を慰めてゐるしぐれかな
葛に喉ごくりと鳴らす近松忌
主はきませり韜晦室の暗夜にも


筑紫磐井
ひと時雨あとで花やぐ美美の忌
何もなくてもこの一月の星凄し
滅亡の狼 兜太・敏雄も我も詠む


【歳旦帖】

浅沼 璞
初日さす褥や虎の大あくび
初夢の色はだんだん宙に浮く
双六の無重力めく入歯かな


眞矢ひろみ
初風の欠片となって走りけり
笑初してパスワード思い出す
大笑の死顔を練る初鏡
うつし世にながらふは意地手酌屠蘇
初句会妖人奇人税務員


下坂速穂
何処よりも樹下の明るし初雀
輪飾りの昔も今も鳩の街
夜更かしをして早起きの足袋を履く
辰巳の名露地に残して松過ぎぬ


岬光世
天平の調べ降り来る淑気かな
三味の音と女礼者へ出す珈琲
黒塀の店おほき坂餅の花