下坂速穂鐘が鳴る方へ向かへば冬日和
閉ざされて冬あたたかな子規の家
町棲みの永き雀に冬日の斑
探梅や遠き世の人思ひつつ
岬光世かくれんぼ寒の足音聞き分けて
荷物なく乗る歳晩の列車かな
柔らかくさがす糸口毛糸玉
依光正樹父の忌のゆりかもめの眼怖ろしく
霜晴の手紙を待つてゐる時間
初雪のもう暮るるなり吾も暮るる
淋しさは氷の溶けてゆくときも
依光陽子仰ぎたる雲に底辺一の酉
冬枯や生えて来し尾に模様なく
葉表の埃をぬぐふ湯冷めかな
日の枝の始点終点冬の禽
竹岡一郎鳥沈む森の救ひは白い橇
亡八の笑み神留守の薬売
十二月八日渦とは逆にまはる膂力
大金庫以外廃墟の冬館
幽世を罵る舌の寒の黴
出ておいで井戸の縁には髪凍てて
寒烏群るるは巨き柱を宙へ
瀬戸優理子白鳥の胸を汚して先頭に
おでん鍋孤独擬きが浮いてくる
地吹雪の出口嗅ぎつける狼
【歳旦帖】
渡邉美保極月の極楽湯まで自転車で
イグアナの気分二日の日を浴びて
イヤホンの左を借りる初電車
曾根 毅手水より伊勢海老のごと初氷柱
産み流す国の頭に雪降れり
破蓮神仏もまた破れたり
鷲津誠次ふと浮かぶ一句小さく初日記
村いちばんよく泣く双子福寿草
初湯して推敲よもや捗らず
人日やタイムカードの打ち忘れ