2022年4月15日金曜日

令和三年 冬興帖第十/令和四年 歳旦帖第十(松下カロ・妹尾健太郎・堀本吟・依光正樹・依光陽子・竹岡一郎・瀬戸優理子)

【冬興帖】

松下カロ
凩や夜の画集の焚刑図
川下の濁りと思ふ柚子湯して
楔形文字寒林の男たち


妹尾健太郎
躍り出て踏みまちがいのごとき鮫
二つ目にする咳も芸のうち
極月のどこもかしこも駐車場
しかないしかない寒月のインタビュー
人身のどれもが零しゆく榾火


堀本吟
風花は谺のように水琴窟
雪女郎うきうきそしてとげとげし
寒卵ほんのり赤うなる手指
 

【歳旦帖】

依光正樹
子を膝に抱いてしづかや年用意
年の瀬の夕べのマスク取り替へて
年の湯や湯舟に柚子のあるごとく
年の花鉢のひとつを取り込んで


依光陽子
小食と大食と年逝かしむる
高々と焔を立ててゐる餅ぞ
言の葉の塔に鳥来る初景色
大鷭の声のみじかき淑気かな


竹岡一郎
迎春の梯子を崖に立てかける
毒を盛られた友の遺した年賀状
人日や予言てふ計画を売る
買初は晶洞眠る山一つ
山始烏に捧ぐ餅純白
初機の音沁み込んで床百年
山神の頌めをる麦を鍬始


瀬戸優理子
元朝の嗽おおきく吐き出せり
初春の少年にやわらかき髭
作業着のまま駆けつける初句会