2022年4月29日金曜日

令和四年 春興帖 第一(仙田洋子・仲寒蟬・坂間恒子)



仙田洋子
ありたけの椿と唇をふれあはす
見つめられすぎて椿の落ちにけり
うなだれて帰る子供や春夕焼
戦争の好きな人類鳥雲に
桜時雲の行方は知らぬまま
花鳥の声の眩しきほどに降る
好きなだけ大きな声を春の山


仲寒蟬
まだ風呂を出て来ぬといふ受験生
だんまりの二三羽混じり百千鳥
望潮ハワイ年々近づき来
湖からの風まつすぐに雛の市
春昼を行く半分はすでに死者
春愁にベートーヴェンは重すぎる
碩学の朝の日課や目刺焼く


坂間恒子
きさらぎのキリンとキリンすれちがう
モラトリアム同士擦れ合う春の小島
教科書にアンネの隠れ家鳥ぐもり