2022年5月13日金曜日

令和四年 春興帖 第三(花尻万博・望月士郎・網野月を・曾根毅)



花尻万博
長々と褶曲に生き蝶々らは
蜂の尻花の深さを出入りす
唇に人だけ透けて暖かし
おたまじゃくしに包まれる飴の色
鬼の子の位置ずれてゐる朧かな
背を追へば蝶々にも生の速さ


望月士郎
白鳥帰る青うつくしくくちうつし
消印は 三月十一日海市
朧夜を歩く魚を踏まぬよう
月おぼろ幻獣図鑑に「ヒト」の項
フラスコの中のふらここ少年期
赤い風船青い風船口結ぶ
永き日の砂丘の砂時計工房


網野月を
黄水仙自由身勝手独善者
パドドゥの老いの夫婦や春の泥
上あごに海苔張り付くや握り飯
桃東風や迷つて頼む興信所
啓龕や花屋の釣りの濡れてゐし
佐保姫の乱と言うには咲き降り
横流るのぞみの窓の穀雨の雨


曾根毅
虚空蔵曼荼羅蝶の舞いはじむ
緋牡丹や閻魔の筆の柔らかく
戸袋の見え隠れする春の雷