2022年6月24日金曜日

令和四年 春興帖 第九(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下坂速穂
木の痕に空の広がる余寒かな
猫柳きのふゆきすぎたる路の
朝見て夜見つめたる雛かな
目刺焼く夜の青空を帰り来て


岬光世
花の種蒔きし故国の土の色
首ちぢめ漕ぎ続けたり半仙戯
春塵や風切羽を授かつて


依光正樹
黄梅や運河にひとつ灯あり
料峭や訪ねあてたる寺ひとつ
髪切つて自由になりし春の雷
春昼の喉にやさしきレモネード


依光陽子
犇犇と紅梅の咲き古びつつ
春の死を鳥の遺した羽根で弾く
新月のあるべき空や鳶の巣
ぱつと開くと同じ頁の春深し