2023年4月7日金曜日

令和四年 冬興帖第三/令和五年 歳旦帖第二/令和四年 秋興帖補遺(辻村麻乃・松下カロ・前北かおる・男波弘志・神谷波・竹岡一郎・堀本吟)

【冬興帖】

辻村麻乃
落葉踏み今日の仕事を終えにけり
冬天に大角羊の咀嚼かな
薩摩汁あれば機嫌の良き夫
日当たりて立ち枯れてゆく紅葉かな
はじまりの呪詛にも似たる冬雷
ばら積の貨物港に寒暮光
枯木から枯木へ夕日渡りたる


松下カロ
白鳥や陶人形の底に穴
熟睡の尼僧へ毎夜白鳥来る
白鳥がよぎるノーベル受賞式


前北かおる(夏潮)
霙るるや本庄早稲田過ぎてより
古き名をくづれ川とも霰魚
今は日を隠すものなし冬の鳥


男波弘志
ゆるやかに祝詞を出づる真神かな
喉笛は隠さずにいて寒月下
自画像やふたりの我に置く胡桃
普門品浮寝の鴨にしたがえり
木守柿抱き合うことを忘れずに

【歳旦帖】

神谷波
数へ日の戦況気掛りでならぬ
餅を搗く山があくびをしたような
人に臍家に床の間鏡餅
松過ぎの友はふらりとやつてくる


竹岡一郎
初夢や一族は陽に並びをる
ドライブイン猿が猿曳あたためる
元旦もかの火葬炉は稼働せる
(はた)の音や獏枕から髪が生ふ
木剣の友は乙女や初稽古
軋む港や伊勢海老を積み上ぐる
橋を褒め姫を畏るる手毬唄


堀本吟
廃校のうさぎ小屋にも初茜
タワーマンション最上階に〆飾り
書き初めや守りの盾に「戈」を添え


【秋興帖 補遺】

前北かおる(夏潮)
おたがひに喪服の今宵秋黴雨
赤シャツの笑顔が遺影秋黴雨
生き字引なりし瓢に酒きらさず