山本敏倖風花の羽化する街を過りけり
路地奥の華構の屋根や冬銀河
墨汁の遠浅活かし海鼠描く
寒月はまよねーずの匂いダダ
雪原へ誤植のような杖の跡
大井恒行指笛にふり向く冬の戻り橋
コウガンモコウガンザイモ冬ハジメ
田中葉月セーター脱ぐ見知らぬ影をおくやうに
ゆるびゆく骨の音あり冬銀河
うまさうな赤子の寝息冬紅葉
振り向けば冬の木漏れ日ついてくる
雪女系図の余白見つめをり
小林かんな冬うらら低い神籤は山羊が食う
靴提げて見入る曼荼羅白障子
冬の菊不動明王顔昏く
火の焚かれ法衣の渡る長廊下
毛氈の果てて綿虫とどこおる
なつはづきオムレツのしわしわになる神の留守
冬もみじ呼吸のたびに揺れる傘
赤ワイン一杯ほどの帰り花
裸木や言葉が硬く着地する
暗がりに匂い置き去りにし兎
わびすけや髪の毛しおしおと眠る
霜の声結び目硬き黒ネクタイ
中村猛虎(なかむらたけとら)回天や海鼠を切れば水溢る
右靴から左の靴へ時雨けり
白息の駆け込んでくる山手線
凩の途方に暮れる土踏まず
寒波来る羽生善治の勝ちし夜に
風花やビクター犬の踊り出す
アマテラスではない君よ着膨れて
【歳旦帖】
辻村麻乃人々の集ひて寒きルミナリエ
富士塚の上の人にも御慶かな
赤子らの交互に夜泣四日かな
ベビーカー登りきつたる初景色
鉄塔の脇照らしたる初日差
大氷柱誰の罪かと問ふやうに
西からの邪視を避けよと雪兎
松下カロ寒林のただ一枝に触れて去り
不機嫌な清少納言着ぶくれて
一月一日真青な雪が降る