2023年4月21日金曜日

令和四年 冬興帖第五/令和五年 歳旦帖第四(浅沼 璞・曾根 毅・家登みろく・望月士郎・山本敏倖・大井恒行・田中葉月・なつはづき)

【冬興帖】

浅沼 璞
立冬の一本たらぬ蛸の脚
参拝の先客ひとり小春かな
冬もみぢ眉間に音のしてゐたり
さかしまの鯨が肺の奥にゐる
乾鮭の北斎に似る面構
身長の伸びる感じの霜を踏む
ふり返る枯葉の道も日の光


曾根 毅
豊饒の蔭の湿りの藪柑子
荒涼と赤い毛布の重なりぬ
寒暁の扉に自重ありぬべし


家登みろく
風花に赤子抱くやう荷を抱いて
耳当や母の掌のごと声のごと
ストーブに髪ますますの濡れ羽色
教へ子のごとく湯の柚子遠し近し
一日のいのち本望雪だるま


望月士郎
綿虫とわたくし混ざりわたしたち
開戦日日の丸という赤い穴
失ったピースに嵌める冬の蝶
冬の虹消えそらいろの置手紙
雨は雪にちいさな骨はピッコロに
冬の葬みんな小さな兎憑き
絵本閉じれば象は二つに折れ寒夜


【歳旦帖】

山本敏倖
大旦人間正しく運ばれる
門松や本卦還りの頃の月
初詣どのわたくしを連れ出すか
切処(きれっと)のちらり初日の羽根の先
運勢や船のごとくに餅伸びる


大井恒行
手びねりの兎の白さ眼の男
愛ありて兎跳びなる不思議かな
じゅうにがつくにうたつきる山河かな


田中葉月
独楽回る宇宙にはない西東
真二つに白菜わるる寂光土
恥じらひのはじまりゐたり冬木の芽
あらたかな山ふところや冬の鵙
山茶花や兎にも角にも白湯をのむ


なつはづき
宝船イスカンダルから帰還せり
初夢や自分をオレという天使
松過や箱の四隅の粉砂糖