2023年7月28日金曜日

令和五年 花鳥篇 第三(辻村麻乃・竹岡一郎・早瀬恵子・木村オサム)



辻村麻乃
サイダーに頬当て友のかたえくぼ
風と陽を交互に受くる山法師
栴檀や小舟にゆさと垂れゐたる
睡蓮の花に纏はる捷き鯉
水面にぴたり咲きたるひつじ草
ぱつと来てぱつと帰れり黒揚羽
またしても妻の話やアイスティー


竹岡一郎
春泥に首までつかり喚いてら
電話口より纏はるが井の朧
五月忌まぶた開け閉ぢ一日果つ
乱鶯の自棄(やけ)のあはれを聴く麒麟
(はし)無くて饐ゆる怨府の鳥のうた
土用浪へと生霊を背負投
鵺の律らふそくの火ののびちぢみ


早瀬恵子
母の日に猫の手招きエンゼルケア
胸高きおんなの顔にもどる夏
メルシーの祖母の午睡やアメジスト
屋号は「澤瀉」天国の定式幕


木村オサム
まだ戦なのかとさくら散りにけり
核戦争あぢさゐ押しただけなのに
緑陰の紅茶ふらんす風和解
蛇苺食うて来世の腹満たす
太陽の中心にある黒い薔薇

2023年7月21日金曜日

令和五年 花鳥篇 第二(山本敏倖・小林かんな・仲寒蟬)



山本敏倖
飛花二片紺屋町へと迷い込む
根本さん()のつばくろで通じます
骨格に浮力を付ける花明かり
たましいの裏側路地の濃紫陽花
その微笑守宮のように懐かしく


小林かんな
酒は辛口六甲に山滴る
春陰を船出すように蔵人ら
だんじりの金よ五月の雲映る
魚崎の魚影の速さ花くるみ
青簾下ろして松子夫人は留守


仲寒蟬
先代の夜逃げの話田螺和
山中に巨大パラボラ風光る
寄居虫に体当たりされポリバケツ
球審の拳の先を初つばめ
たんぽぽの絮八十億人の星
下手な歌けふも聴かされ熱帯魚
筍を焼きをる方が拾得か

2023年7月14日金曜日

令和五年 花鳥篇 第一(五島高資・杉山久子・神谷波・ふけとしこ)



五島高資
占ひの館に紛れ込むさくら
那須の水ふくみて天に花杏子
田水張る前に鎮まる真土かな
田を植ゑてより高天原そよぐ
麦秋や空のそこひは戦ぎけり
月影に空き家あります花芭蕉
日高見の光を洩らす雲の峰


杉山久子
チューリップ黒き花粉を花の内
返却日過ぎし本ある薄暑かな
新茶汲む師のなき時間送りつつ


神谷波
春遅々と鳥宿り木を突きけり
鶯のしきりに鳴いて暮れかぬる
いのち全開石段の落椿
いちはつや泣き虫弱虫大丈夫
   

ふけとしこ
鷹の化す鳩かも赤きアイリング
鳥の巣が生中継に写り込む
諸鳥のこゑくぐりきて豆ごはん

2023年7月7日金曜日

令和五年 春興帖 第四(辻村麻乃・竹岡一郎・早瀬恵子・木村オサム)



辻村麻乃
動かざる花に花人動きたり
萼片の五枚の揺らぎ節分草
鬣に風を孕みて厩出し
花かたくり秩父の土と引合へり
蝶二頭高く翔びたる保存林
耕人に短き影の付き纏ふ
歯の抜けるやうに散りたる花辛夷


竹岡一郎
降る花に交じる鱗をことづてと
妓をかこむ奔流として雪柳
()り急ぐなよきさらぎの無人駅
菜種河豚づくしの膳をふるまはる
鏡像の右手ひだりに映る朧
蝶湧くを見し葬儀屋はきびきびと
(みんなみ)を指す梅が枝を散杖とす


早瀬恵子
ウイルスと一刻者とタテの春
ウ(ベン)一山僧侶の空の高野槇
天晴な実家の片づけ揚羽蝶
星めくやあのねのあなた霞草


木村オサム
ガウディの佇んでいる春の泥
とぼとぼと行けば渡れる薄氷
理科室のビーカー光り卒業す
蛤の中は弥勒の舞ふ宇宙
足跡でだいたいわかる四月馬鹿